「人生100年時代」というキャッチフレーズが広く普及したことにともない、「没イチ」という言葉も社会に認知されつつあります。「没イチ」とはどのような意味なのでしょうか。今回はこの「没イチ」という言葉を改めて振り返るとともに、没イチの有意義な過ごし方についてもご紹介します。「没イチ」という言葉にあまりなじみがないという方も、ぜひ参考にしていただけたらと思います。
没イチとは
初めに、「没イチ」という言葉そのものをご紹介します。「没イチ」とは、配偶者と死別して一人になった方々を指す言葉です。これは、第一生命経済研究所主席研究員である小谷みどり氏が2012年に結成した「没イチ会」という集まりのメンバーによって提唱されました。誕生してまだ10年も経っていない、新しい言葉です。
「没」という言葉が使われていることから後ろ向きなイメージを抱かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、この言葉が作られた意図はそうではありません。離婚したことを前向きに受け止めるために生まれた「バツイチ」という言葉をヒントにして、「配偶者を亡くしたあとも、配偶者の分まで前向きに生きていこうという人が増えるように」という願いが込められた言葉です。社会学や死生学では「遺族」という言葉で呼ばれていましたが、「没イチ」と自らを認識することによって、前向きに生きていこうという気持ちがわいてくる方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのような効果が期待されて社会に広がりつつあるのが、この「没イチ」という言葉です。
没イチが増えている現状
こうした背景から生まれた没イチですが、近年では増加傾向にあるという現状があります。その背景には、「人生100年時代」と言われるように平均寿命が延びたこと、また核家族化が進んだことにより、配偶者が亡くなると家に一人になってしまうという方が多いことなどが考えられます。さらに、平均寿命が延びたことは「没イチとして生きていく時間が延びたこと」をも意味しています。
具体的に数字を見てみましょう。国勢調査のデータによると、2015年の時点で40歳以上の没イチは全国に約955万人います。さらにその内訳としては、約8割が女性となっています。これは、一般的に女性の平均寿命が長いことが理由として挙げられます。増加具合に関しては、1990年と比較したデータがあります。1990年では没イチは710万人で、ここから35%も増加していることがわかります。さらにこの増加した方の多くが、一人暮らしをしているというデータもあります。つまり、近年増加傾向にある没イチの多くは、女性かつ一人暮らしであるという現状がうかがえます。
加えて、「没イチ期間の長期化」についても具体的な数字を見てみましょう。データによると、没イチとなった年齢は、平均するとおよそ60歳前後です。また、2017年の日本の平均寿命は84歳であることから、没イチとなってから25年ほどの年月を過ごされる方が多くいらっしゃることになります。平均寿命の長期化や核家族化の進行具合に大きな変化は見られないため、この没イチの方の増加傾向はしばらく続くことでしょう。
没イチになることのインパクト
没イチになる方が増加傾向にあることをご紹介しましたが、没イチになることそのもののインパクトも、近年では大きくなっています。
かつては3世代が同居していたことで、没イチとなった後の人生も子や孫と一緒に暮らしていくことができました。また、男性の平均寿命も現在ほど高くはなく、2000年のデータでも3分の2の男性は80歳までにはなくなることが多かったようです。つまり、女性が没イチとなる年齢は60~70代であり、まだまだ元気な状態でした。加えて家族と一緒に暮らしているので、孫の面倒を見たり家事をしたりと、生活に張りがあったとも言うことができます。
しかし、現状は少し違っています。夫婦2人のみの家庭が非常に多くなっていますので、没イチとなったその日から、突然の一人暮らしが始まります。また男女ともに平均寿命が延びていることから、没イチとなったときには女性も80代を過ぎているということも珍しくありません。つまり、高齢になって少し弱っている状態で、突然の一人暮らしを始めなければならないという状態になるのです。
まだ若い年齢のときに子や孫に囲まれた生活が始まっていた従来の没イチとは、受けるインパクトが大きく違っているということが想像できるのではないでしょうか。
没イチを楽しんでいる方の事例
高齢になってから没イチになり、大きな喪失感の中で突然の一人暮らしが始まってしまう。そのような事態に備えて、元気なうちから、配偶者と死別した後にどうやって生きていくのかを考えておくことは非常に重要です。
そこで次に、没イチを楽しんでいる方々の事例を紹介します。「没イチになってからもこんなに楽しんでいる方がいるのか」「こうやって楽しむ方法があるのか」というように、何かしらの参考にしていただけると幸いです。
共通の趣味を持つ仲間と集まる
何かの教室や講座、部活動のような集まりに参加することは非常に有意義です。例えばこちらの事例では、「おとなの部活」が開催されています。
こういった活動に参加するかどうかを検討する際には、「自分はあまりその分野に詳しくないから、話についていけないかもしれない」と心配されるかもしれません。しかしこの部活動では、昔から本格的に写真撮影をしてきたという方から、これから勉強したいという方、また持っている機材も本格的なカメラからスマホだけという方まで、様々な方が集まっています。ただ「写真を楽しみたい」という気持ちがあれば、問題なく参加することができるでしょう。
共通の趣味や関心事があれば、他の参加者の方とも話がしやすいものです。また、その趣味を日常でも楽しむことによって、日々の生活に張りが生まれます。没イチを楽しむために、趣味の集まりに参加するという選択は非常にオススメです。
お1人様限定のツアーに参加する
テレビ番組でも紹介されたことで話題になっている、「お1人様限定のツアーに参加する」という楽しみ方もあります。
これは旅行会社が企画しているツアーで、その特徴は「お一人様限定」「ご友人同士、ご夫婦などお知り合い同士でのご参加はお断り」という、ひとり旅を楽しむことができるツアーです。参加者全員がおひとり様、添乗員が同行、1名1室など、没イチの方の気持ちにも細やかに対応してくれるということで、大人気となっています。
初めから参加者同士が知り合いだということもないため、自然と他の参加者の方との会話が生まれます。また同じように没イチで参加されているという方も多くいらっしゃるため、徐々に打ち解けることができる、自信を取り戻すことができるといった声も参加者から聞くことができます。
「ツアーの旅行が初めてで不安だ」という方は、「集合場所確認ツアー」に参加すると安心できるかもしれません。これはツアーの下見のようなもので、それぞれの集合場所を順に確認していくというツアーです。これを済ませてからツアーに参加することで、「集合場所にたどり着けなかったらどうしよう」といった不安を感じることなくツアーの時間を楽しむことができます。
このツアーのように、没イチが社会に認知されることで、没イチの方に向けたサービスなども広がりを見せています。そのようなサービスなどを利用して楽しむのも、またオススメです。
没イチとは? まとめ
今回は、没イチについてご紹介しました。「没イチ」という言葉に馴染みがなかったというかたも、その言葉が意味するところを理解していただけたのではないでしょうか。また、没イチという言葉が広がることで、没イチの楽しみ方の選択肢も徐々に増えつつあります。今回ご紹介した「おとなの部活動」や「お1人様限定ツアー」など、気になるものにぜひ、思い切って参加してみてください。きっと、楽しい没イチの過ごし方を見つけることができるでしょう。
没イチに関する参考URL
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3990/