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2019年2月24日

「没イチ男女」再出発に必要な婚前契約と思いやり(毎日新聞Web 2/24掲載)

「没イチ男女」再出発に必要な婚前契約と思いやり 

増え続けるシニア婚

 「人生百年時代」を迎えた今、パートナーを亡くしたり、離婚したりした後、一人で生きる残りの人生は長い。そのまま一人で暮らす場合もあるだろうが、最近注目されているのが、再婚を含む高齢期になってからの結婚、いわゆる「シニア婚」だ。

18年には78歳のプロ野球福岡ソフトバンクホークス球団会長、王貞治さんの再婚や、元東京都知事・猪瀬直樹さん(71)と女優で画家・蜷川有紀さん(57)の結婚が話題になった。実際にシニア婚は増えている。厚生労働省の人口動態調査によると、17年に65歳以上で結婚の届け出をした男性は5445人。00年には2977人だったが、10年4579人、15年5296人と、結婚総数が減る中で高齢者の結婚が増え続けている。これは届け出のあった件数で、事実婚は含まれない。実態はもっと多いと考えてよいだろう。

 

家族形態の変化で独居の高齢者増

背景には長寿化があるが、家族形態の変化も見逃せない。国勢調査によると65歳以上の1人暮らしは1980年には男性約19万人、女性約69万人で、65歳以上人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%だった。だが、15年には男性約192万人(13.3%)、女性約400万人(21.1%)に増えている。

 また、65歳以上の世帯で80年に5割を占めていた3世代同居は、15年には12.2%にまで減少。夫婦のみの2人暮らしが最も多く31.5%を占める。以前なら配偶者に先立たれても子どもらと同居していた高齢者が、1人暮らしするケースが増えている。シニア婚の素地が広がる。

こうした状況を踏まえ、出会いを提供するビジネスも盛んになっている。中高年向けでは50年以上の歴史がある会員数約4000人の結婚相談所「茜会」のマネージャー、後藤ひろみさんは「人生百年時代がいわれ、高齢期からのネクストライフを考える方が増えています。特に今の60代男性はバイタリティーがあって、仕事も結婚もという方が増えました。女性は安心を得たいという傾向があります」と話す。

 

相続トラブルや医療同意できない現実も

 注目されるシニア同士だが、いざ結婚となると、特に子どもがいる場合は、相続のトラブルが発生しかねない。そのため、法律婚ではなく事実婚や通い婚を選択する人が多いといわれる。だが、事実婚は法的には他人同士だ。パートナーが手術をする場合も医療同意に関われず、悔しい思いをすることもある可能性もある。「家族」の同意が慣習化しているからだ。さらに高齢者同士、お互いの介護も考えておく必要がある。シニアならではの現実から目を背けるわけにはいかない。

問題を解決する一つの手段として注目されているのが「婚前契約」や「パートナーシップ契約」だ。いずれも、結婚前に取り交わす約束や覚書で、事実婚をするうえで互いの権利を守るために明確にしておくべきことを契約書にしたものだ。

「シニアこそ契約を活用してほしい」と語るのは離婚など夫婦の問題に詳しい弁護士の小林芽未さん。「シニアの方は生活スタイルも考え方も確立している。契約内容について話し合うことで、お互いの結婚に対する考え方を明確にできます。事実婚では、契約書でお互いの権利を守ることが重要」と説明する。同居義務があるかどうかや生活費の負担方法、結婚生活が破綻した場合の慰謝料の支払いなどが項目として考えられるという。

 

事実婚で契約書を交わす

横浜市の閑静な住宅街で暮らす日吉勝さん(74)と和子さん(71)は、事実婚でパートナーシップ契約を取り交わしている。取材中、お互いに何度となく見つめ合っては笑い合う仲むつまじい様子の二人は、子どもがいる再婚同士だ。

勝さんは退職後、前妻と69歳で離婚した。「人生はまだまだ長い。自分に合うパートナーといるほうが豊かな時間になる」と考え、結婚情報サービスに登録した。和子さんは10年前に夫と死別。介護を続けていた義母が施設で暮らし始めたタイミングで登録した。「第二の人生を始めるのは今しかないと思いました。友人たちは口々に『今から結婚したってあとは介護しか残っていない』と反対したのですが」と和子さんは振り返る。

お互い、なかなか思うような出会いがなく、「もう相手を探すのはやめようか」と思っていた矢先の16年3月、「お見合いパーティー」ですれ違った。和子さんの一目ぼれ。約1か月後には一緒に暮らすことになった。義母の存命中に法律婚はしたくないという和子さんの思いを尊重して婚姻届は出していない。「トラブルを避けたい」と弁護士に相談したところ、パートナーシップ契約を勧められた。18年8月、契約書を公正証書にして作成して取り交わした。

 

孤立以外に認知症やけがの防止につながる

 二人が交わした契約書にはこんな内容が記されている。

 「一方に医療行為が必要であると医師が認めるとき、他方がその医療行為について医師から説明(カルテの開示を含む)を受け、医療行為の同意をし、又は治療方針の決定に同意するなど通常配偶者に与えられる権利の行使について相互に委任する」

 「本契約の効力が生じている期間中に(中略)協力して得た財産については、一方が自己の名で得た財産であっても、その共有に属するものとする」

一方が亡くなった場合には残された側に財産が贈られるよう、遺言書も作成した。「最後に『ありがとう』と言って先に逝ければ、最高の人生だね」と勝さんは言う。契約書で安心を得て、日々の生活を楽しんでいる。

星野哲 ライター/立教大学社会デザイン研究所研究員/1962年生まれ。元朝日新聞記者。30年ほど前、墓や葬儀の変化に関心を持って以降、終活関連全般、特にライフエンディングについて取材、研究を続けている。2016年に独立。立教大学大学院、東京墨田看護専門学校で教えるほか、各地で講演活動も続ける。著書に「遺贈寄付 最期のお金の活かし方」(2018年、幻冬舎)「『定年後』はお寺が居場所」(同、集英社新書)「終活難民-あなたは誰に送ってもらえますか」(2014年、平凡社新書)ほか。

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